日向坂46 佐々木美玲の場合 G線上のアリア

グラビアアイドル

2019.03.19

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思っている少女の物語。お嬢様”な自分から抜け出したいと

美玲の母親は、紅茶に口をつけながら、庭にいる愛娘の姿を眺めている。

蒼く深い空に、ゆったりと流れるバイオリンの調べ。 – 広い庭でひとり、美玲は大好きな『G線上のアリア』を弾いている。

繊細で、ときに力強く。「今日のアリアは、とくに叙情的だわ」と、母は思う。

「美玲さん、今日は、どうしたの?」

母が、庭にいる美玲に声をかける。「どうしたのって? 何もないです」「今日は随分、旋律がくっきりとしていて。まるで何かを語っているように感じたわ。心の中にため込んでいるものがあるのでは?」「そうかな。そんなことないと思うけど」「そう。ならいいのだけれど。じゃあ私は、もう出かけるわ。あとはよろしくね。帰りは遅くなるから」

そう言った母を目で追うと、再び美玲はG線上に戻った。

空色のレッスン着に着替え – て、リビングで踊る。「お嬢様」を地でいく美玲に似つかわしくない姿だ。 – ダンススクールに通いだしたのは、中学生の頃。 -5つ上の従姉に誘われ、母に内緒でダンスを始めた。

家族は従姉に勉強を教わりに行っているのだと思っている。

格式高く、厳しい教育のもと育った美玲にとって、ダンスは「自分を変えてくれる」魔法の光そのものだった。

「今日もゲーセンにしようよ」

以前、ダンススクールの後輩たちから、そんな会話が聞こえてきたことがある。「G線? あなたたちもバイオリンを弾くの?」「え……ゲーセンって、ゲームセンターのことです。レッスンのあと、ゲームセンターで待ち合わせしようって」

美玲の好きなバイオリン独奏曲『G線上のアリア』。ドイツ語で「G」は「ゲー」と発音し、「ゲーセン上のアリア」とも読

む。美玲は、思わず赤面した。「ごめんなさい。勘違いをして。で、そのゲーセンというのは、どんなところなの?」「……いや、美玲さんが行くようなところじゃないです。不良がいるような危険な場所ですから」

そう言って笑う後輩たち。胸がざわついた。ちょっとの恐怖心と、ちょっとの好奇心。『G線上のアリア」を弾くとき、いつもそのことを思い出していた。

薄暗い店内。電子音が鳴り響く。皆、筐体の前に座り、真剣にゲームに興じている。

両替機に向かう途中、少年はその少女の存在に気づいた。

スカジャンを着た、その少女は、じいっと格闘ゲームの画面を見ている。